妄想爆発

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「まだだ!スギッチ、お前はもっと速く動ける!」
田中の叫びが会場の静寂を切り裂いた。無意識の叫びだ。己が叫んでいることに田中自身も気付いていない。今や、彼の意識はスギッチの一挙手一投足を捉えることのみに捧げられていた。
田中の声はなおも続く。
「スギィーッチ!!速く動こうと思うな!速いと知るんだ!」
突然叫び出した田中に呆気にとられるようにしていた大会役員たちが、遅ればせながら彼を取り巻くように集まってきた。一人が田中の前を遮って立ちはだかり、「ちょ、ちょっと、あんた!場外からのアドバイス、駄目だって知ってるでしょ!退場だよ!」わざとらしく語気を荒げて詰め寄った。
しかし、そんなことで田中は怯まなかった。というより、そこに誰かがいるという事実にさえ気付いていない。今の田中の五感は、コート内でボールを追ってめまぐるしく動くスギッチにのみ向けられているからだ。
田中は役員の頭を右手で押しやり、二歩、前に身を乗り出し、
「スギッチ!お前のフットワークなら、十分いける!!お前は卓球の神に愛されてるんだぁあぁぁー!!」
一層の大音声で絶叫した。(余)
by deepkazuno | 2007-03-28 22:19 | 酒場あばん亭
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